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池井戸潤×柴田陽子 対談
「今こそ、ゴルフ場へ」

LIFE, OTHERS

ゴルフは愉しい。
それが魅力的な旅先でならば、もっと—。
北海道内に4つのゴルフ場を経営する
若き女性社長と、
ゴルフをこよなく愛する作家が語る、
旅とゴルフの愉悦。
コロナ禍の逆風にも負けない経営術で、
来る春を待つ。

2020年夏、恵庭カントリー倶楽部を訪れた池井戸さん

柴田 今年の夏には恵庭カントリー倶楽部にお越しくださり、会員にもなっていただきまして、ありがとうございました。
池井戸 こちらこそ、お世話になりました。とてもいいコースでしたね。フラットで、洋芝がきれいに手入れされていて。絵に描いたような「ザ・北海道」という雰囲気を楽しみました。池や浮島が随所に設けられた、変化のあるレイアウトが印象に残っています。
柴田 恵庭カントリー倶楽部には9ホールのコースが3つあるんですが、池井戸さんには「阿寒」コースからラウンドしていただきました。いずれも、初心者の方からプロの方まで、どなたが回っても楽しんでいただけるコースにしたいと思っているんですが、とくにレディースティーについては思い切り前に出しているので、女性の初心者の方からも好評です。
池井戸 空港から近い(編集部注・新千歳空港から車で約35分)のも便利ですよね。本州が暑すぎる夏に北海道に行くと、非日常的な爽快感が感じられて、ちょっと外国に来たような気分になれます……といっても、最近は北海道もけっこう暑いみたいですけど。
柴田 隠していたんですが、お気づきになられましたか(笑)。
池井戸 ハハハ。でも、やはり旅する楽しさは格別です。

柴田 北海道は全国一、ゴルフ場が多いところですので、旅の間に複数回、ラウンドをなさる方も多いですね。上手の方だと、1日で別々のゴルフ場をハシゴする方もいらっしゃったりして。
池井戸 途中で昼食を摂らないのも、特徴ですよね。だから可能なのかな? この夏の北海道は、僕としてはもう引退試合のような気持ちだったんですが……。
柴田 えっ、どうしてですか?
池井戸 最近、どうやってもうまくならないなぁ、とつくづく感じていて。そうやって1日、ゴルフに費やして不機嫌になるくらいだったら、その時間を全部小説の執筆に回した方が気分がいいし、皆も喜ぶんじゃないかと(笑)
柴田 そんなことおっしゃらないでください。もちろん、たくさん小説を書いていただくのは、読者としてはうれしいことですが。新作の『半沢直樹 アルルカンと道化師』も、さっそく読ませていただきました。池井戸さんの小説を初めて手に取ったのは、おそらく『半沢直樹』シリーズの初期の作品だったんですが、読み始めたら止まらなくて、毎回、寝不足になってしまうんです。
池井戸 それはそれは、ありがとうございます。うれしいですね。
柴田 『アルルカンと道化師』は、これまでのシリーズから少し昔に戻った感じで、半沢直樹と中小企業がしっかり向き合っているところが面白かったです。
池井戸 先日までドラマが放送されていたシリーズ第3作の『ロスジェネの逆襲』と第4作の『銀翼のイカロス』で、ちょっと物語の舞台が大きくなりすぎたんですよね。ですから、銀行員の本来の持ち場である、卑近な戦いに舞台を移してみたんです。
柴田 自分が小さな企業を経営しているということもあって、身につまされる部分がありました。企業経営は、現実にはなかなか厳しい面がありますが、小説を読んでいる間だけでもスカッとできるのが毎回、うれしいところです。


池井戸 コロナウィルスが流行し始めてからは、ゴルフ場もお客さんが減って大変でしょう。
柴田 そうですね。うちは春のオープンが4月半ばなんですが、例年はその時点で年間の4割くらいの予約が埋まるんです。しかし、今年はキャンセルの電話が相次いで、今期はもう無理かもしれないな……と。そこで一旦、あきらめをつけたという感じでした。
池井戸 僕も春以降、一切のゴルフの予定がなくなりました。文壇のゴルフコンペは、秋も中止。「GoToキャンペーン」開始の影響はどうですか? 東京も遅れて追加になりましたが。
柴田 東京の追加は、やはり大きいですね。6、7月に比べれば、スーツケースで来られる旅の方もちらほらお見受けするようになりました。それでもやはり、企業のコンペが少ないのは決定的で。自粛ムードもありますし、もし何か起こった場合、対外的にどう見られるかということを気になさっているのかなと感じます。赤字決算になったとき、最初に切られるのは遊興費だったりもしますしね。

池井戸 要は、接待交際費を使うお客さんが来ないことですよね。飲食業界も同じだと思いますが。僕の周りでも、個人のゴルフの集まりはわりと復活したんですが、大きな会合がなかなか戻ってこない。厳しいところですね。
柴田 まさかこんな事態が起きるとは、想像もしていませんでした。
池井戸 ゴルフ場の中には、会員の年会費を上げたり、逆にプレー料金の値下げに踏み切ったりしたところもあるようですが、そういったことは考えませんでしたか?
柴田 年会費は変更しませんでした。プレー料金については、とくに名門といわれているクラブですごく値下げしたところもあったのですが、うちは一切やらなかったんです。夏くらいには「本当にそれでいいのか」と皆で悩んだりもしたんですが、来年以降のことを考えると……。下げるのは簡単ですが、一旦下げたものを元に戻すのは、それこそ本当に大変なことなので。
池井戸 プレー料金も年会費も、ちょっと上げるだけで、文句を言う会員もいますからね。そこでどっしり構えることができたのは、大きいんじゃないでしょうか。

柴田 ですので、今期は早々にあきらめて、その間にできることからやっていこうと。これまで忙しくてなかなか手が回らなかった部分の社員教育を徹底したり、キャディーの方々の研修を行ったり。あと、やはり会員の方々に還元できるものを何か、ということで、「陽だまり」というメンバーズルームを新しく設けたりしました。パーティーなどにご利用いただくスペースのほか、「Track Man」(弾道計測器)」を使ってシミュレーションゴルフを体験していただける部屋を作りまして。
池井戸 へぇーっ。
柴田 北海道では冬にプレーができないので、その間、沖縄に行かれたり海外に行かれたりする会員の方が多いわけですが、今年はなかなかそういうわけにもいきません。その間にでも使っていただけたらな、と思いまして。
池井戸 コロナで大変な中、余裕がありますね。
柴田 いえいえ、とんでもない。私は2007年の入社なんですが、もともとは航空会社で機内に勤務していて、経営や数字がまったく関係ない世界で生きてきたんです。何もわからない状態で、でも、これまでとは違った世界で、何か自分で考えて作り出すことをしてみたいと思って入社して、最初に担当したのが、系列の登別カントリー倶楽部の仕事。民事再生からの立ち上げでした。

池井戸 スポンサーになられたんですよね。それは大仕事だ。いろいろ、大変だったでしょう。
柴田 最初はやはりよそ者ですし、「何をやってるんだ!」と叱られたりもしましたが、本当に勉強になりました。登別市の周辺にはゴルフ場が少なくて、会員の方々には、ここをなんとか守らなくてはというお気持ちが強かったんだと思います。そのことに、ある意味、すごく支えられました。
池井戸 会員の意識が高まっていることは、とても大事ですよね。何をするにしても。
柴田 はい。民事再生を行った時点で、それまでの会員数から半分に減ったんですが、その後、残った会員の方々がお友だちを誘ってくださったりして、最終的にはそれ以上に増えました。
池井戸 理想的だなぁ。経営というのは、本当は女性の方が向いているんじゃないかと思うことがあるんです。集客にしても、商品開発にしても、ちょっとした気づきや発見ですごく変わるじゃないですか。男が大雑把で気づかない部分にも、女性だと細やかに目配りして対応できたりするので。
柴田 そうでしょうか。自分ではあまり向いているとは思えないんですが(笑)。でも毎日、楽しくやれています。私はこの業界に入るまで、男性社会の論理のようなものに触れたことがなかったんです。それこそ、池井戸さんの小説に書かれているような……。
池井戸 そんなの、書いていましたっけ?(笑)
柴田 アハハ! ゴルフ場経営に携わって、「ああ、男性って、こういう理屈で動いてるんだ」ということにはじめて気づかされました。でも普段、仕事の面で男女差を考えないようにしているので、そのあたりはあまり気にしてこなかったのですが。さまざまな面で動きやすいようにやらせていただいています。


池井戸 JCなど、経営者の会には入っていらっしゃるんですか?
柴田 入っていません。でも、同業の若い経営者とのつながりはけっこうあって、いろいろと情報交換はしています。今年はあまり忙しくなかったぶん、いろんなことがリセットできた年でもあったんじゃないかと感じているところです。去年まではありがたいことにたくさんご予約をいただいていたんですが、本当に今までのやり方でよかったのか? など。たとえば、うちは各組のスタートを7分間隔で行っていたんですが、それをもう少し拡げたほうがいいんじゃないのか、そもそも来場者数も、本当にこの数でいいのか、というふうに……。まだまだ、答えは出ていないんですけれども。
池井戸 コースに出てしまえば問題ないですが、今はあまり密にはしたくないですよね。あと、コンペだとやたらに待たされるのも。
柴田 そうですね。コロナのことは別にしても、やはりストレスなく回れるというのは大事だと、皆さんが感じられたんじゃないかと。ですから、来年もし状況が良くなったとしても、去年までと同じ方向を向いて進むのはたぶん違うんだろうな、と思っています。


池井戸 各ホールで何組ずつかが一斉にスタートするなど、どこでもやり方を工夫していますよね。僕がいいなぁと思ったのは、コンペが終わったあと、練習場でレッスンが受けられる仕組み。ほら、だいたいいつも成績がイマイチで終わるじゃないですか(笑)。「あーあ」と思いながら上がってきたところで、プロに見てもらって、こういうところを直したらいいですよと教えてもらえるのは、すごくありがたい。
柴田 そうですね。終わったときこそ、練習に行きたくなりますし。
池井戸 でしょう? それで指摘されたところを直すと、ちょっとうまくなった気分になって、「また行くか」と……。さっきも言いましたが、個人のゴルフ欲はもう普通に回復してきているので、あとは、皆でやってもいいんだという雰囲気が生まれて浸透するかどうか。来年、もし東京オリンピックが開催されることになったら、ゴルフコンペも次々と復活するんじゃないでしょうか。
柴田 確かに、そうですね。マスコミなどでも、ポジティブな報道をしていただけると、雰囲気は変わってくると思います。
池井戸 コンペの問題は、やっぱりプレー後の飲食かな。表彰式や懇親会がリスクになりますが、やらないで帰るというのも……。
柴田 コンペでうちがお勧めしているのは、従来のように18ホールで順位を決めるのではなく、前半で勝負を決めてしまうやり方。そうすると後半、お客さまが上がってくる頃には順位が決まっているので、集まらなくて済みますので、けっこうスムーズにいっているんじゃないかと感じています。

池井戸 それはいいですね。
柴田 はい。いまも幸い、とくにこちらから働きかけをしなくても、「大丈夫?」とメンバーの方々が自発的に来てくださっているので、ありがたいなと思いますね。「空いているからいい」と、逆に喜んでくださったりして。
池井戸 余裕がありますね。恵庭は高級クラブですから、若い人はなかなか行けないかもしれませんが、若い会員を増やす策も考えていらっしゃるんですか?
柴田 会員は札幌在住の方が多く、年代では私と同世代の40代がもっとも若いですね。そこの層を取り込むためには、やはりそのコミュニティーに入っていくしかないので、同年代の会合には意識的に参加するようにしています。若い世代はとくに、知り合いがいないと……という傾向があるんですね。「このクラブに入りたい」という動機づけよりも、「あの人がいるから、一緒に行ってみよう」という気持ちのほうが大事だったりする。そういうところを押さえていくと、さらに周りの人も入ってくださるという現象がみられます。

池井戸 そうですよね。僕も、友人に誘われて入っているクラブがあります。ゴルフというのは、場所がどこかというよりも、やっぱり一緒にプレーするメンバーが誰かということが大事だったりする。
柴田 とくに女性は、やっぱりつながりを大事にする傾向がありますね。気に入っていただけると、どんどん誘ってきてくださるのがありがたいです。おかげさまで、若い女性もけっこう増えているんですよ。うちのゴルフ場はお客様の居心地のよさや設備の充実を重視しているので、女性の方に気に入っていただけているようです。食事のメニューも豊富なので、好評をいただいています。
池井戸 食事は、大きなポイントになりますね。プレー後も、とくに旅ゴルフだと、何を食べるかは大事で。僕も事前にリサーチするんですが、ゴルフ場の支配人に聞いて勧められた店では、おいしいものが食べられることが多いです。
柴田 私も、ときどき尋ねられます。ご紹介して喜ばれるのは、恵庭市の居酒屋さん。地元の人しか行かないお店ですが、東京よりも札幌よりも安いお値段で、新鮮なお刺身が食べられるんです。
池井戸 ああ、それはいいですね。行ってみたいです。
柴田 ぜひ。引退とおっしゃらずに、またお出かけください(笑)。お待ちしております。


【PROFILE】
池井戸潤
1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞。テレビドラマ化された『半沢直樹』『花咲舞』シリーズのほか、『空飛ぶタイヤ』『民王』『七つの会議』『陸王』『ノーサイド・ゲーム』『アキラとあきら』など作品多数。最新刊は『半沢直樹 アルルカンと道化師』。

■柴田陽子
1976年愛知県生まれ。航空会社勤務を経て、2007年恵庭開発株式会社に入社。12年より代表取締役社長。北海道恵庭市の恵庭カントリー倶楽部をはじめ、登別カントリー倶楽部(同・登別市)など4コースの経営を手がける。


構成=大谷道子 写真=小林司、高橋淳司