美しさは挑戦の中にある。デイビッド・M・デイルが描く新しいゴルフの風景
60年以上の歴史を持つ春日井カントリークラブ(愛知県)が、2024年に大きな節目を迎えた。東コースを全面的にリニューアルし、新たなスタートを切ったのだ。現時点ではまだ日本国内で導入例のない最新の環境技術やメンテナンス体制を採用し、クラブの伝統と未来をつなぐ改修となったのだが、その設計を手がけたのが、世界各国で名コースを生み出してきたデイビッド・M・デイル氏(Golfplan社)だ。
ただ美しいだけではない、
「挑戦したくなる」コース。
そこに流れる思想を、彼自身の言葉から探っていく。
「美しいコース」とは
「挑戦」の中にある

編集部: デイルさんにとって、「美しいゴルフコース」とはどんなものなんでしょう?
David M. Dale:
美しいコースというのは、戦略性があって、プレーヤーの技量に応じたいくつもの攻め方ができる場所だと思います。リスクが目に見える形で存在していて、思い描いた通りにプレーできたときに「やった!」という達成感を感じられる。そんなコースですね。
見た目の美しさという点では、バンカーやグリーン、フェアウェイ、池が滑らかな曲線でつながり、自然の中に溶け込んでいること。そして、その土地の風景を生かしながら、さらに魅力を引き立てていることが理想です。

美しいコースでのプレーは、自然と人との対話なのかもしれない。
成功と失敗、緊張と解放。その揺れの中に「達成感」が生まれる。
「ゴールデンエイジ」に学ぶ
戦略の芸術

編集部: 春日井カントリークラブの東コースは、どんなコンセプトでリニューアルを進められたのでしょう?
David M. Dale:
今回の春日井カントリークラブの設計は、1920年代の「ゴールデンエイジ」にインスピレーションを得ています。ドナルド・ロスやアリスター・マッケンジーといった名設計家が活躍した時代です。バンカーは数も面積も減らしましたが、すべてプレーに関わる位置に配置し、視覚的にも明確に見えるようにしています。
グリーンは三段構造が多く、角度によって難易度が変わります。正しい角度からピンを狙わないとパーやバーディーは難しい。でも、間違っても受け止めてくれる優しさもある。そこが面白いところですね。

設計の中に「プレーヤーとの駆け引き」があり、戦略性の中に優しさがある。
どんなレベルのプレーヤーも、プレーの流れの中で自然と「挑戦」と「発見」を味わえる。
そんな懐の深さが、彼のデザインの魅力だ。
女性ゴルファーが
楽しめる設計とは

編集部: 女性ゴルファーにとってプレーのしやすさも大事だと思います。設計の際に意識されていることはありますか?
David M. Dale:
一番大事なのは距離ですね。ラベンダーティー(レディースティー)から5000ヤード弱くらいが、ちょうど楽しい。深いバンカーは底を少し傾斜させて、女性でも脱出しやすくしています。グリーンまわりはフェアウェイカットを広く取って、パターでも寄せられるし、ウェッジで挑んでもいい。いろんな選択肢を楽しめるようにしているんです。


女性の視点を意識した設計は、彼の特徴のひとつ。
「飛ばす」よりも「工夫する」ことで楽しめる。
それが、デイル流の「戦略の平等」。
プレーヤーの選択肢を増やすというのは、まさに彼らしい発想だ。
デイルが語る、
訪れるべき「美しいコース」

編集部: これまで手がけたコースの中で「女性ゴルファーにぜひ訪れてほしい」と思う場所はありますか?
David M. Dale:
春日井カントリークラブはもちろんですが、「ボナリ高原ゴルフクラブ」もすごくおすすめです。磐梯山や安達太良山を眺めながらのプレーは、本当に気持ちいいですよ。
それから、タイの「チーチャンリゾート」や、私が改修したハワイの「パール・アット・カラウアオ(旧パールカントリークラブ)」もおすすめです。どちらもスキルに応じて楽しめるパブリックコースで、リゾートとしても最高の環境です。

25年のワッグルコンペ in タイは、デイル氏設計のチーチャンリゾートで開催した
地形の個性を活かし、風景と一体になったコース。
彼の“美しい”の定義は、どの国でも変わらない。
「自然の力をそのまま生かすこと」だ。
サステナブルな美しさ。
その本当の意味

編集部: 春日井カントリークラブでは「サステナブルな設計」もテーマのひとつだと伺いました。環境に配慮したコースづくりについて、どのように考えていらっしゃいますか?
David M. Dale:
芝生エリアの面積を必要最低限に抑えるようにしています。リンクスコースの発祥地では芝が自然のままでしたが、多くのコースでは人工的に育成されています。

そのため、水や肥料、薬剤、労力、エネルギーが必要になります。それらを減らすことで環境への負荷を小さくできるし、芝を減らしたエリアをその土地本来の自然状態に戻すことで、コースと風景が自然につながるんです。
そして、環境に配慮した設計によって、グリーンやフェアウェイ、ティーといったプレーの要所にしっかり集中できるようになります。結果としてコンディションも良くなるし、プレー自体がより快適になる。そして何より、自然に包まれた環境の中でプレーする時間は、リラックスできて本当に気持ちがいいんですよ。

彼の「サステナブル」は単なる環境配慮ではなく、
プレーヤーの心に余白を生むデザイン哲学だ。
日本の女性ゴルファーへ
「まずは、自分の飛距離やレベルに合ったティーを選ぶこと。
David M. Dale
そして、自分なりのコース戦略を立てて、思い描いたプレーをしてみてください。
うまくいったときには、その喜びを仲間と分かち合ってほしい。
それがゴルフのいちばんの魅力です」
自然の中で戦略を描き、仲間と笑い合う。
その瞬間こそ、
ゴルフの“美しさ”なのかもしれない。
春日井カントリークラブの新コースは、そんなデイル氏の哲学が静かに息づく場所として、新しい風を感じさせてくれる。
David M.Dale
⚫︎デイビッド・デイル(Golfplan社Principal)/米国出身のゴルフコース設計家。ワシントン州立大学で造園建築を学び、1988年に卒業後Ronald Fream氏の設計グループに入社。1996年にパートナーとなる。2006年にKevin Ramsey氏とともにGolfplan社を設立。世界40カ国以上で設計・監理を行い、韓国のClub at Ninebridgesなど国際的な名コースを手掛ける。Golf Magazine世界トップ50に選ばれた実績を持つ数少ない現役設計家の一人。

